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9話 秘めたる恋心と、交錯する視線

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-09-01 16:53:44

♢まどかの視線と胸の痛み

 まどかの声は、幻ではなかった。やがて、彼女のオレンジ色の水着と、弾けるような笑顔が、波の向こうから近づいてくるのが見えた。凛音と千代も、その少し後ろからゆっくりと泳ぎ寄ってくる。

「あー!やっと見つけた〜! もう、どこまで流されてんのよ、二人とも!」

 まどかが呆れたように笑いながら、二人の間近まで来た。彼女の視線が、悠真の腕の中にあるひよりの姿と、悠真の少し赤い頬を交互に捉える。その瞳の奥には、好奇心と、何かを見抜いたような光が宿っていた。悠真は、その視線にぞくりとした。まるで、彼の秘めたる衝動が、まどかには丸見えであるかのように感じられた。

「ご、ごめんね、まどかちゃん! 波に流されちゃって……」

 ひよりが、まどかから視線を逸らし、ばつが悪そうに俯いた。その声には、まだ微かな震えが残っている。彼女の頬の赤みは、波に揺られたせいだけではないだろうと、悠真は内心で思った。

「ふーん……。ま、いっか! せっかく見つけたんだし、一緒に遊ぼうよ!」

 まどかはそれ以上追求せず、満面の笑みでひよりの腕を掴んだ。その拍子に、ひよりの身体が悠真の腕から離れていく。失われた温もりと柔らかさに、悠真の心臓がずきりと痛んだ。まるで、彼の一部がひよりの体と一緒に引き離されたかのような喪失感に襲われる。

「……そう、焦る必要はないわ」

 凛音が、悠真のすぐそばまで来て、静かに呟いた。その声は、水音にかき消されそうなほど小さかったが、悠真の耳にははっきりと届いた。凛音の視線が、一瞬だけ悠真の顔に向けられる。その涼やかな瞳の奥に、何か深い意味が込められているように感じられた。彼女は悠真の複雑な心情を、どこまで理解しているのだろうか。悠真は、何も言えずにただ、凛音の言葉の真意を探ろうとした。

「みんなでいると、やっぱり楽しいね」

 千代が、微笑みながらひよりの隣に並んだ。彼女の言葉は、喧騒の中に穏やかな波紋を広げる。その優しい声が、悠真の胸のざわめきを少しだけ和らげた。

 悠真は、再びひよりから離れてしまった自分の掌を見つめた。あの柔らかく、熱を帯びた感触は、もうそこにはない。しかし、その記憶は鮮明に脳裏に焼き付いており、彼の股間に残る熱とともに、彼の理性を蝕み続けていた。夏のプールサイドの熱気は、彼の心の奥底で燃え盛る情欲を、さらに煽っているようだった。

♢流れる時間と抑えきれない衝動

 その後も、悠真たちはスライダーに乗ったり、流れるプールで遊んだりして、夏の日差しを満喫した。悠真は、ひよりの隣を離れないように、常に彼女の近くにいた。スライダーを滑り降りる際に、ひよりの体が跳ねて、彼とぶつかり合うたび、悠真の心臓は高鳴り続けた。ひよりの、無邪気な笑顔と、時折見せる恥じらいの表情が、彼の心を掴んで離さない。

 夕暮れが近づき、プールサイドは徐々に客足がまばらになっていく。西の空は、茜色から紫へと移り変わるグラデーションで染まり、プールの水面にもその色が映し出されていた。肌を撫でる風が、昼間の熱気とは違う、どこか物悲しい涼しさを帯び始める。

「そろそろ、上がろうか」

 凛音が、そう提案した。まどかは少し不満げな顔をしたが、千代が「体が冷えちゃうからね」と優しく促すと、渋々頷いた。悠真は、この楽しい時間が終わってしまうことに、胸の奥で寂しさを感じていた。同時に、プールサイドでの出来事が、彼の心に新たな火種を残したことを自覚する。

 ロッカールームに戻り、濡れた水着を脱ぐ。ひんやりとした水着が肌から離れると、一日の熱気が再び彼の体を包み込んだ。着替えを終え、再びプールサイドに出ると、夕焼けの光がさらに濃くなっていた。ひよりが、少し離れた場所で、髪の毛をタオルで拭いている。その仕草一つ一つが、悠真の視線を惹きつけた。

「ねぇ、ひよりちゃん、今日のプール、楽しかったね!」

 まどかの明るい声が、静かになったプールサイドに響く。

「うん!とっても楽しかった!風間くんも、ありがとうね、助けてくれて!」

 ひよりが、悠真の方を振り向き、にっこりと微笑んだ。その笑顔は、夕焼けの光を受けて、彼の心に深く刻み込まれた。悠真は、ひよりの感謝の言葉に、胸が締め付けられるような喜びと、同時に、彼女への想いが募っていくのを感じていた。彼はただ、曖句に頷くことしかできなかった。

 夏の夜空には、早くも一番星が瞬いている。悠真は、ひよりの隣を歩きながら、まだ手のひらに残る、彼女の胸の感触を反芻していた。今日一日で、彼のひよりへの想いは、さらに深くなったことを自覚する。その想いが、彼の股間へと、じわりと熱を伝えていた。彼は、この募る衝動を、どうすることもできないまま、ただ夜の闇へと歩を進めるのだった。

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